【前編から続く】
転職エージェントは、Aさんの現在の待遇も考慮したうえでの対象企業にとってのAさんの必要性について人事ベースで検討するよう促し、人事担当者が後日役員会に提案するという流れがそこでできました。

※一般的に求人とは、企業がある待遇で人を採用するという情報を公開し、これに応じる個人がその待遇での求人に応募することで面接プロセス(採用判定行為)が生じ、最終的に企業から採用する旨の通知(採用日も含めた労働条件通知)が発行(人事発令)され、応募者が辞退しない限り通常は採用日から勤務が開始されるものです。
以上から、応募者に待遇交渉権のようなものはほぼなく、通常は、「こういう条件で働く人を探しています(企業)」→「働きます雇ってください(個人)」→「では〇日から勤務してください。条件は出しているとおりだからね。(企業)」→「雇ってくれてありがとうございます。頑張ります。(個人)」という流れしかありません。
転職エージェントが介在すればこのような流れにはなりにくく、逆に、「〇〇さんならこの条件で働いてもらいたいがどうでしょう?(企業)」→「現在の待遇を考慮していただいて、もう少しこういう待遇であれば御社で働きたいのですがいかがでしょう。(個人)」→「その待遇は難しいですがこの部分をああしましょう。(企業)」→「考慮していただきありがとうございました。精一杯務めさせていただきます。(個人)」→「頼みました。期待していますよ。(企業)」のような流れにもなり得ます。

数日後に人事担当者から「正式にAさんを招いて役員面接をしたいのでスケジューリングを頼みます。」と転職エージェントに連絡が入り、転職エージェントはAさんに連絡し、スケジューリングに入りました。ここで転職エージェントは対象企業のAさんに対する面接オファーに基づく正式な履歴書&職務経歴書の作成をAさんに頼み、Aさんの対象企業に対する正式応募の意思確認をしました。
もちろん、この時点ではまだAさんは勤務先に退職の意思は示していません。
そうして転職エージェントは面接に先立ちAさんの作成した履歴書&職務経歴書(転職エージェントの添削済み)を人事担当者に提出し、当日の役員面接をサポートしました。

※勘の鋭い方はもうお分かりかと思いますが、このような流れになった場合、人事担当者はAさんの推薦人のような位置づけになります。そしてまた人事担当者は取締役部長級(上司は経営トップ)である場合も多く相応の人事権を委ねられています。つまり正式面接と言いながら形式的な行事という側面もありますので、シッカリとした誠意とヤル気と謙虚さをもって臨めばそれほど難しい局面ではありません。下手をすれば(よくありがちですが)社長等の個人的な話になってしまい、終始和やかなムードで世間話をするだけということもあります。

面接時の転職エージェントの役割ですが、これはもう待遇の話につきます。
ここまで話が進んだ場合、Aさんの願いは妥協や努力も含めてたいていはかなっているのですが、なるべく給与が下がらないようにしてほしいという願いに対しては、決裁権者(この場合は人事担当者の上司の社長)とかなり踏み込んだ話をしなければ結果を得ることはできません。
転職エージェントは話に割り込み、現在のAさんの年収を社長に対して率直に伝えました。
そして中途採用(キャリア採用)した場合の初年度は別として、いったいいつのタイミングで現在の年収をAさんは得られるのか、または何年たっても得られないのか決裁権者である社長に尋ねました。
ここで人事担当者は給与という自分の職務範囲の話題になったので転職エージェントと社長の間に入り、「その件は後日回答させてください。」と先送りしました。
以降は誰もが話題にしにくい待遇の話がなくなり、話しやすい話題のみで面接が進み終始ムードも和やかでした。

面接を終え、転職エージェントはAさんの思いを確認し、Aさんには勤務先に対して決して退職願は出さないよう伝え(この状況下でも、転職エージェントは転職を思いとどめさせる役割をも担いますし、同時にクライアント企業の思い次第では転職を促す役割も担います)、後日の人事担当者からの連絡を待つことにしました。

後日、人事担当者から転職エージェントに連絡が入り、Aさんを採用した場合のAさんの待遇について書面(Aさんが受諾した場合の仮の労働条件通知内容)で回答を受け取りました。つまり前提として採否については採用(採用したい)ということです。これは言うなれば【Aさん限定の求人】(Aさん以外誰も応募できない求人)ということにになります。

後はご想像にお任せします。

最後まで読んでいただきありがとうございました。